2012年元日
福島第一原子力発電所の南側に発電所の敷地を一望できる展望台がある。そこから少し下った場所にある潰れた養魚場の前で、元日の朝に友人のトニーと待ち合わせた。
機材と荷物を背負い、折り畳み自転車で夜通し走り、ようやくたどり着いた彼は大層疲れた様子だった。
そういう私も前日に40キロほどの道のりを歩き、富岡にある隠れ家に着いた時には文字通り足が棒のようになっていたが、緊張感とこの数時間前の撮影の妙な高揚感からこの時はそれほど疲れを感じていなかった。
合流してから養魚場で1時間ほど休み、私たちは当てもなく歩きだした。
養魚場から国道6号線へ向かう、ある一本道の左側ギリギリをインディアナのロングボードに左足を乗せて慎重に進む私の視界の二百メートルほど先に、こちらへ向かってくるから警察車両が映った。
後ろを振り返り
「トニー、警察!」
と、どのくらいの大きさだったかの記憶はないが、叫んだ私の声に、道の右側をトボトボと俯いて歩いてた彼はハッと顔をあげ、
次の刹那に土手の中へ、ピョンという音が聞こえてきそうな、やや芝居がかった跳び方で放物線を描いて消えた。
それを認めた私は、愛機を胸に抱え、脇の藪へ身を投げ入れた。